甲州市のエリア特性

甲州市の地域特性について、土壌、地形、気候等の観点から地区(塩山、勝沼、大和)単位(大字地による)の6つに分類しました。以下の情報は、(財)山梨県果樹園芸会発行の土屋長男氏著書による葡萄栽培新説、JAフルーツ山梨営農技術指導員からの聞き取り、及び認証審査会事務局担当者の主観から纏めました。

 

・勝沼地域(勝沼、等々力、深沢)
生食・醸造問わず甲州種ブドウが集団的に栽培されている勝沼地域は、勝沼地区の中央部に標高300〜550㍍の間に位置し、等々力、勝沼、深沢の3つの大字地から構成されています。畑の形状は平坦地と傾斜地とにはっきりと分かれており、南から南西向きの斜面で、砂質土は少なく、火山灰土壌(ノップイ)が主であります。
国宝・大善寺付近の南西向けの高台に位置する畑(小字名である道上、鳥居平など)は、日照時間が長く、甲府盆地に照り差す午後の陽光を南アルプスに沈むまで十分に吸収出来ることなどから条件が良いとも言われています。 また、東の谷から直接吹き付ける「笹子おろし」で寒暖の差が大きくなり、畑に冷涼感を与えます。

 

・祝(岩崎)地域(下岩崎、上岩崎、藤井)
祝(岩崎)地域は、勝沼地区の南部に標高300〜500㍍の間に位置し、下岩崎、上岩崎、藤井と3つの大字地から構成されます。1186年(文明2年)の雨宮勘解由(あめみや・がげゆ)伝説に端を発する同地は、甲州種ブドウ発祥の地として名高く、勝沼地域同様に同ブドウが集団的に栽培されています。畑の形状は、勝沼地域と同じく平坦地と傾斜地とに分かており、北から北西斜面で、主要河川である日川(にっかわ)沿いの河岸段丘の畑は、花崗石(御影)が堆積した砂質土が主ですが、大半は輝石安山岩の分解した粘質土となります。藤井エリアは、扇状起伏する台地であり、急峻な斜面が続き水捌けが良いことで知られます。また、ワイナリーの集中度が12社と高いのが特徴です。

・東雲(しののめ)地域(小佐手、休息、綿塚、山)
東雲地域は、勝沼地区の北部に標高300〜400㍍の間に位置し、小佐手、休息、綿塚、山と4つの大字地から構成され、ブドウと桃の栽培が半々と特異な地域構図となっています。甲州種ブドウを栽培する農家が比較的多く、またそのなかでフリー樹の割合が多いのが特徴と言えます。畑の形状は平坦地が多く作業性に優れ、土質は粘質土が主です。1984年に日本で初めて甲州種ブドウをシュール・リー製法で醸造した本格辛口ワイン「甲州東雲シュール・リー」の原料生産地であります。
甲州種ブドウ樹は在来樹とフリー樹に大別され、フリー樹とは、ウイルスフリー化された苗。糖度は高く、酸度は早く低下する傾向があり、成熟期が早く、着色も良いと言われています。

 

・菱山地域(菱山、中原)
菱山地域は、勝沼地区の北東部に標高400〜600㍍の間に位置し、菱山、中原の2つの大字地から構成されます。勝沼地区の中で最も標高の高いエリアで、寒暖差が大きいのが特徴です。特に山際の畑は特有の冷涼感を感じ、山からの風が畑を冷やし、ブドウを引き締めます。土質は、粘質土で、雨上がりに畑に入ると高下駄のようになるほど靴に土が付くほど。畑の形状は傾斜地が大半を占めますが急斜地も比較的多く、西から南西向けの斜面で土地の排水性に優れます。特筆すべきは、ブドウづくりに従事している割合が勝沼4地域の中で最も多い事。「菱山」と地名を冠したワインも商品化されており、その中には土地の個性を感じさせるワインも産出されています。ボディーと骨格が強くなる傾向があると言われています。

 

・塩山地区(千野、玉宮、奥野田、松里
塩山地区は甲府盆地の北東部に位置し、主に旧村名である千野、玉宮、奥野田、松里地域にブドウ畑が点在します。ワイナリーが集積し、ブドウ畑が一面に拡がる勝沼地区とは形態は異なり、桃やスモモ、柿といったブドウ以外の果樹栽培が盛んな地区です。中央部の重川と西部の笛吹川の一級河川が流れ、土質は、地力のある砂土に粘土が混ざります。標高は400〜600㍍の間に位置し、斜面の向きは多様。畑の形状は、緩やかな傾斜地が主で急斜地も比較的多く、勝沼地区とは明らかに違う形状であることから、出来上がるワインのアロマや味わいに明確な違いが見られると言われています。

・大和地区(共和)
大和地区は、勝沼の大善寺から大和の景徳院の間に位置する大和町共和地域において面積こそ少ないが主に甲州種ブドウが栽培されています。甲州街道沿いに位置する同地は山と山に挟まれるV字谷に類似した地形で、緩やかな傾斜地に畑が連なります。土質は粘質土が中心。標高は450〜500㍍の間で、栽培される甲州種ブドウのその多くはワイン用に用いられます。同地区産ブドウが単独で仕込まれることはありませんが、貴重な甲州種ブドウの栽培地であります。

甲州市の主要河川「日川」「重川」の川沿いの構造

甲州市の主要な河川は二つ。勝沼町勝沼地区と岩崎地区の間を流れる「日川」、塩山南部を流れる「重川」(富士川水系)。いずれも山梨市一町田中で「笛吹川」に合流。双方河川における河岸段丘の構造を紹介します。

・「日川」(にっかわ)

(河川の概要)山梨百科事典より

大菩薩嶺の西南ろくに発源し、花こうせん緑岩地帯の断層線に沿って南流し、大和町甲斐大和駅付近に達する。これから西北-南東の断層線に沿って西流し、甲府盆地に入るや笛吹市一宮町北野呂付近に扇状地たい積物を残し、山梨市一町田中で笛吹川に合流。

(川沿いの構造)

勝沼という地域柄、右岸、左岸ともブドウ畑が連綿と続いています。

右岸は勝沼町勝沼と等々力地域、左岸は勝沼町下岩崎、上岩崎地域となります。

砂利交じりの砂地土壌が多く、水捌けは良いが、乾燥に弱い側面を持ちます。

河川沿いは甲州種ブドウを栽培する畑は少なく、生食用の大房系ブドウの栽培が目につきます。

・「重川」(おもがわ)

(河川の概要)塩山市史民族調査報告書(平成6年度版)より

重川が奥野田の母なる川である。源を大菩薩嶺に発し、塩山地域内を潤し、山梨市一町田中で笛吹川に合流。全長約18キロの一級河川である。この川を挟んで奥野田は左岸の「川東」と右岸の「川西」地区に二分される。前者が山村の北牛奥・花園の二地区で、後者が平地の熊野・西広門田の二地区である。

(川沿いの構造)

勝沼の日川の構造とは異なり、ブドウ畑と併せ、住宅や桃などの立木果樹が右岸・左岸とも続いているのが特徴と言えます。

塩山地域における甲州種ブドウの総栽培面積は約8ha(2005年)。この数値からもわかるように河川沿いに甲州種が栽培されているケースは少なく、ブドウ以外にも桃、スモモ、柿といった果樹栽培が盛んな塩山をいう地域を象徴していることがおわかりいただけるかと思います。

2012年の勝沼の降水量と気温(月別)


2012年ミレジムは年間降水量が1,000m未満で推移し、特に8月(甲州種ブドウの収穫直前)の降雨が極端に少なく、健全果なブドウが収穫され、総じて良年との呼び声が聞こえています。しかし、糖度の上昇とともに一部酸度の低下も見受けられており、糖度、酸度、Ph等ワイン用ブドウとしてのトータルバランスを図ることに苦慮した年でもありました。

2013年の勝沼の降水量と気温(月別)

amenohyou2013

2013年のミレジムは萌芽は2012年より5日早く、展葉期間である4月下旬から5月上旬は低温で推移、生育が低調で花振るいが憂慮された。その後、気温が急激に上がり、生育が早めに推移した。
梅雨期は降雨が極端に少なく、甲府気象台観測史上最も少ない降水量を記録した。高温乾燥で推移したことから、病害虫は少ない傾向であったが、生食、醸造問わず肩部に日焼けが散見された。日焼けを防ぐ為、除葉や夏季剪定を敢えておこなわない園や抑え気味にするなど、陽を果実に当てない対策が施された。
また甲州種ブドウの房型は、粗着型、密着型と樹によって違いが見られた。
2013年夏、酷暑に見舞われた本市。勝沼観測所では、最高気温日本一の日が4日続くなど、特異な、とにかく暑い生育期であった。
ブドウ全般の生育が前倒しするなか、晩成の甲州種ブドウも早いところでは8月上旬にヴェレーゾン期を迎え、9月中旬には着色がかなりの園で回るなど、生育の前進化が確認でき、併せて収穫期も早まった

2014年の勝沼の降水量と気温(月別)
2014-rain
2014年ミレジムは萌芽は5月上旬で遅め、5月の連休明けから高温が続いたが後は2013年と同様な生育推移。高温乾燥、梅雨期の長雨で一部の園において房にベト病が見受けられた。梅雨入りが例年より早く、梅雨明け後は降雨が少なく乾燥状態。生食用ブドウについては玉張りが悪い。収穫量については平年並み。 2014年より甲州市勝沼町勝沼地区(海抜360m地点)にて、甲州種の糖酸度事前検査を8月10日から10日間隔で実施。糖酸度の年毎のデーター蓄積を目指す。(比較検証の意味から年毎のデータベース化は必要) 台風11号以降の集中的な降雨が一因で玉割れ、着色不良が起き、一部晩腐病、葉の痛み、赤サビが出た。ヴェレーゾン期の高温が影響し、黒系ブドウの着色不良が顕著に起きた。 ワイン用ブドウにとって重要なファクターである8月。曇りや雨の日が多く、日照量が不足。また降雨のタイミングも悪く、難しい月となった。 (寝苦しい夜がなく、昼夜の寒暖差はある程度あったが、とにかく日照不足であった。) 9月は天候が回復し、晩成のブドウは取り戻した感はあるが、黒系ブドウの着色がのらない。甲州種は総じて酸度が高い傾向が伺える。 温暖化よる異常気象(高温、突発的な集中豪雨等)により全般的に果物が作りにくい環境にある。技術以上に環境変化への対応力がより一層求められる。

2015年の勝沼の降水量と気温(月別)

2015

2015年のミレジムは萌芽以降、開花時期に天候に恵まれたこともあり全体的に実付きが良い。7月上旬は長雨に悩まされ、日照不足。一転中盤以降は35度前後の気温が高い日が続く。長雨により病果が心配されたが、目立った被害は出ていない。一部日焼けが見られる。生育の前進化。(前年と比較し3~5日程度)例年にない豊作。房が大きく、玉張りが良い。8月半ばまでは高温乾燥。下旬からは一転気温が低い日が続き、早くも秋雨前線の影響を受ける。「暑」「寒」の極端な天候が2015年の特徴ではないか。本格的な収穫期となる9月に入っても定期的に降雨があり、特に8、9日には台風18号の影響もあり2日間で119mmの降雨が記録されている。一度に降る量が増えているのが問題。今後雨対策が重要になってくる。

2016年の勝沼の降水量と気温(月別)

無題

2016年のミレジムは4月は高めの気温が続き高温乾燥で推移。一転5月に入り、低温・多雨が続き、薬剤散布が遅れた一部の園ではベト病が発生した。甲州市内の平均開花日は5月25日で、入梅は例年より早く、空梅雨で病害虫は少ない傾向。開花時期に天候に恵まれたことから、実付が良く、生育の前進化が顕著。着色先行で生育が進む。また、5月から6月は一部うどんこ病が散見された。9月までは定期的に降雨はあったものの比較的天候に恵まれたことから、デラウェア種など早熟の品種は糖酸度がそれなりに充実し、健全果のブドウが収穫されている。一転9月中旬からは2週間降雨が続き、全国的にも日照不足が問題となった。長雨により懸念されていた晩腐病があちこちで発生し、その影響によりブドウの収量減に伴う価格の高騰の懸念も出てきた。ボルドー液散布を徹底している園でも晩腐病が見られている。ブドウの品質は、園によって違いはあるものの、甲州市が本年度から実施している甲州種ブドウの成熟度検査の数値推移からみるとヴェレーゾン以降9月中旬まではどの調査園でも軒並み1週間間隔で0.5度から1度の範囲で糖度が上昇してきたが、中旬以降は、わずかな上昇に留まっている。

2017年の勝沼の降水量と気温(月別)

2017年産ブドウは3月半ばから4月半ばまで低温で推移をしていったため、発芽が遅く、開花期は5月末から6月頭という状況であった。(前年より1週間の遅れ)
5月に入り、気温が高い日が続いたため、品種を問わず開花は一斉となった。開花期、日中の気温は高めであったが、朝夕は冷涼で寒暖差があった。全体的に果穂の形状は粗着。
開花期以降は7月いっぱいまで高温少雨で夜温も連日25度を下回って寒暖差があり、果粒も小さく順調に推移をした。成熟期の8月は総雨量こそ平年並みであったが、連続降雨によって、早生のデラウェアについては一部裂果の発生が確認された。
9月は定期的に降雨が確認されたが、天候は比較的安定し、酸の減衰も遅く糖度はゆるやかに上昇、病虫害も少なく、健全果の収穫が可能となった。
糖酸値ともある程度充実していることから、甲州ブドウにとっては好適な年と言える。
粗着傾向であることから収量が下がるとの見方もあったが、前年と打って変わり、果粒のダメージがほとんどなく、健全果のブドウが確保できたことによって概ね計画どおりの収穫量となった。
10月の後半に収穫したブドウを用いて醸造されるワイン、一部でアルコール発酵の進み具合が少し遅い状況が確認されている。一因とすると資化性アミノ酸の含量が少なく、影響を及ぼしている可能性がある。資化性アミノ酸は酵母が発酵中に利用できる栄養素、資化性アミノ酸が少ないと発酵が途中で止まったりする原因となる。

甲州市内におけるワイン原料用甲州種ブドウの取引量の推移(単位:トン)


※2014年から調査対象を甲州市内といたしましたので、表を変更いたしました。